ドラゴンメイド喫茶『ボルケイノ』。
異世界の狭間にあり、どのような料理だって提供出来るという喫茶店。
そんな喫茶店の、とある一幕。
◇◇◇
すまーとふぉん、なるものがあるらしい。
何でもこのボードで電話も出来て言葉もやりとり出来て写真も送れて世界中と繋がれるらしい。
良く分からないが、ケイタの世界では一般的なものであって――別に私が持つ必要はない。
持たないといけなくなったのは、ケイタとの連絡を取るのに苦労したからだ。
とはいえ、私はあちらの世界には住んでいないから……、そこで苦労したのだけれど、何とか今に至る。
しかしながら、当然こちらの世界では使えないので、あちらの世界と繋げておかないとこの『すまーとふぉん』やらを使うことが出来ないのだ。
向こうの時間では、ちょうど一月一日になった辺り。ケイタの世界では一月一日を元日といって祝うらしい。一年の始まりを祝うのはどの世界でも共通している、ってことなんだろうな。
しかしながら、私は『すまーとふぉん』を使うことが出来ないので――一部の操作は教えてもらったが――今は適当にあちらの世界を調査しているといったところだ。
慣れてしまえばどうということはない。今度ケイタに『めっせーじ』とやらを送ってみるか……などと考えていると、ぴこん、と音が鳴った。
それは『めっせーじ』とやらが来たことを報せる合図だったようで、私の『すまーとふぉん』にもその『めっせーじ』が残っていた。
それによると――『めっせーじ』には写真が一緒に送られていた。
写真を見ると、そこにはケイタとサクラが一緒に映っていた。
『めっせーじ』には、こんなことが書かれていた。
「去年は色々大変でしたが、今年もよろしくお願いします。あと、美味しいお蕎麦をありがとう。家族が喜んでいました。早くメリューさんの料理を目の前で食べたいです。では」
「あいつ……、『めっせーじ』とやらだと丁寧だよな……」
別に普段はぶっきらぼうという訳ではないのだが、それについては置いておく。
そして、私はそれについて『めっせーじ』を返していく。
今年の始まりはいつもと違って少し静かだけれど、忙しさは変わらない。
ケイタとサクラが無事にまたここで働けるようにしていかないといけないのだ。
そう思いながら、私は『めっせーじ』を打ち込もうとすると――。
「メリュー、何ニヤニヤしているのですか……。気持ち悪いですよ」
――ティアがそんなことを言いながら、私を窘めた。
余計なことを言わなくても、なんて思ったけれど私は特に何も言うことなく、『めっせーじ』を送る作業に戻るのだった。
2021年01月01日
ボルケイノの静かな朝 〜ドラゴンメイド喫茶年始特別編2021〜
posted by 巫夏希 at 00:00| Comment(0)
| 小説
2020年12月31日
いつもとは違う大晦日 〜ドラゴンメイド喫茶年末特別編2020〜
ドラゴンメイド喫茶『ボルケイノ』。
異世界の狭間にあるその喫茶店では、ありとあらゆる料理が提供されるという。
それは、そんな喫茶店のとある一幕。
◇◇◇
大晦日、午後一時過ぎ。
今年は色んなことがあった……。感染症が世界的に大流行して、学校は完全にリモートでやることになった。今はパソコンとネット環境さえあれば何とかなるのだから、便利な時代だけれど、しかしながら、それは普段俺がやっているバイトにも影響を及ぼすのだった。
今年の夏ぐらいに、メリューさん――ボルケイノの実質的な管理者――から、ボルケイノへのバイト自粛を要請された時はどういうことなのかさっぱり理解出来なかった。
メリューさん曰く、
「そちらの世界ですら完治するかも分からない感染症を、こちらの世界に持ち込むのはリスクが高すぎる。せめて治療薬が見つかるまでは自粛しなさい」
まあ、言いたいことも分かるけれど、てっきり密にもならなければ感染する可能性すらないと思っていたから、これは寝耳に水だった。
クラスメイトでボルケイノでも一緒で働いているサクラ曰く、
「仕方ないよね……、私達がウイルスを持ち込まないとも限らないし」
メリューさんが言うには、感染対策をしたところでそれは無意味だと言うのだ。そもそも、俺達の住む世界ぐらい技術が発達している世界は少なく、マスクを付けろだの距離を開けろだの消毒をしろだの会話をするなだのと言ったルールは、はっきり言って適用されないとのことだった。
「一応、そちらの世界に何か送ってやるから……。今年の年末はゆっくりと過ごしてくれよな」
数日前、メリューさんが出した手紙――何処から出しているのだろうか――にはそんなことが書かれていた。
そして、今。
俺は段ボールを見て笑みを浮かべていた。
「いやいや……、何処から段ボールを確保したんだろうか……?」
すっかりこちらの世界の知識を得ているメリューさんだったが、しかしそれはそれ。
中身を見て、俺は少しだけ満足したように頷くのだった。
今年はいつもと違った年末年始を迎える。
せめて、来年にはまたいつもの皆と顔を合わせたいものだ、そう思って俺はスマートフォンを手に取った。
1月1日更新につづく
異世界の狭間にあるその喫茶店では、ありとあらゆる料理が提供されるという。
それは、そんな喫茶店のとある一幕。
◇◇◇
大晦日、午後一時過ぎ。
今年は色んなことがあった……。感染症が世界的に大流行して、学校は完全にリモートでやることになった。今はパソコンとネット環境さえあれば何とかなるのだから、便利な時代だけれど、しかしながら、それは普段俺がやっているバイトにも影響を及ぼすのだった。
今年の夏ぐらいに、メリューさん――ボルケイノの実質的な管理者――から、ボルケイノへのバイト自粛を要請された時はどういうことなのかさっぱり理解出来なかった。
メリューさん曰く、
「そちらの世界ですら完治するかも分からない感染症を、こちらの世界に持ち込むのはリスクが高すぎる。せめて治療薬が見つかるまでは自粛しなさい」
まあ、言いたいことも分かるけれど、てっきり密にもならなければ感染する可能性すらないと思っていたから、これは寝耳に水だった。
クラスメイトでボルケイノでも一緒で働いているサクラ曰く、
「仕方ないよね……、私達がウイルスを持ち込まないとも限らないし」
メリューさんが言うには、感染対策をしたところでそれは無意味だと言うのだ。そもそも、俺達の住む世界ぐらい技術が発達している世界は少なく、マスクを付けろだの距離を開けろだの消毒をしろだの会話をするなだのと言ったルールは、はっきり言って適用されないとのことだった。
「一応、そちらの世界に何か送ってやるから……。今年の年末はゆっくりと過ごしてくれよな」
数日前、メリューさんが出した手紙――何処から出しているのだろうか――にはそんなことが書かれていた。
そして、今。
俺は段ボールを見て笑みを浮かべていた。
「いやいや……、何処から段ボールを確保したんだろうか……?」
すっかりこちらの世界の知識を得ているメリューさんだったが、しかしそれはそれ。
中身を見て、俺は少しだけ満足したように頷くのだった。
今年はいつもと違った年末年始を迎える。
せめて、来年にはまたいつもの皆と顔を合わせたいものだ、そう思って俺はスマートフォンを手に取った。
1月1日更新につづく
posted by 巫夏希 at 16:32| Comment(0)
| 小説